スペシャルインタビュー|岸田 裕子 様

第101代内閣総理大臣 岸田文雄氏の夫人であられます岸田裕子(きしだ ゆうこ)様にお話をお聞きしました。ご自身も長年、裏千家で茶道を習われており、茶名も拝受されていらっしゃいます。

※インタビュー当日は新型コロナウイルス感染対策を行った上で、一部、マスクを外して取材・撮影しております。

プロフィール

氏名:岸田 裕子 氏

第101代内閣総理大臣 岸田文雄氏夫人。広島県三次市出身。広島女学院高等学校、東京女子大学文理学部卒。元マツダ株式会社役員秘書。三人の息子の母。裏千家の茶名は、宗裕。

茶道を始めたきっかけ

インタビュアー お茶を始められたきっかけについてお聞かせください。

岸田裕子夫人(以下、岸田夫人) 一番最初の出会いは3歳ぐらいのころまで遡ります。叔母がお茶を習っておりまして、何流何千家だったかは分かりませんが、家に来た際に教えてもらったのが最初の出会いです。しかし、その時はそこで終わってしまいまして、続けることはありませんでした。
その後、改めて習い始めるきっかけとなったのは、地元広島に戻ってからでした。今から15年くらい前で、一番下の子が小学校に上がったくらいの時だと思います。実は母も茶道を習っておりまして、広島の三次で淡交会に入っておりました。また、主人が広島第一支部で顧問をさせていただいていましたので、それがご縁でお茶会に呼んでいただく機会が少しずつ増えるようになりました。子供の頃に少し習った程度でしたので、最初は呼ばれてもお茶の頂き方がよく分からない状態でした。「お客様としてきちんとお茶を頂くことができるようになりたい」と思ったのが習おうと思ったきっかけでした。お茶席に呼ばれてスマートにお茶を頂かれる方やお点前をなさっている方を見て、自分もそんな風になれたらと思い、本格的に習い始めました。

インタビュアー 久しぶりに再開された茶道は、どのような印象を受けられましたか?

岸田夫人 本当にゼロからという感じでした。時間がなかなか取れないのですが、少しの時間でも習いに行こうと思い、週1回の御稽古は極力欠かさない様にして続けるようにしました。お客様としてお茶を頂けるようになればと思って始めたお茶だったのですが、一旦始めると、色々広がっていきました。最初はお点前を先生に教えていただいて、段々とお茶の大変さも、楽しさも分かってきました。
お茶事とかお茶会というのは、準備がとても大変ですよね。お茶道具に何を使うとか、お菓子をどうするとか、お軸は何を掛けて、どういうお茶席にしようとか、色々考えますよね。前日にはお掃除をして、当日も朝早く起きて着物を着ていくというのは、体力的にも精神的にも大変で、私もお社中のお茶会をお手伝いさせていただいて、「これは修行だな」と思うことも何度かありました。

インタビュアー ご自身で呈茶をされたり、茶事をされる機会はございますか?

岸田夫人 広島での呈茶があります。2017年に宮島で御献茶式がありまして、私の先生が薄茶席の担当で、私がお点前をさせていただきました。御家元もいらっしゃって、御家元の真正面で緊張しながらお点前をいたしました。
お茶事をさせていただいたこともあります。2015年にお茶名「宗裕」を頂きましたが、その際にいたしました。巻紙に墨で案内状を書き、懐石も周囲に手伝ってもらいながらいたしまして、本当にあれ程大変だったことはありませんでしたが、非常に達成感と充実感がありました。

おもてなし

インタビュアー 首相夫人として、おもてなしのところで普段から気に掛けていらっしゃることは何でしょうか。

岸田夫人 「相手に不快な思いをさせない」、「嫌な思いをさせない」を一番に考えますね。一人でも面白くないと感じる方がいらっしゃると全体として良くないと思います。色々な方と接する時に、相手に楽しいと思っていただけると、それが自分に返ってくると思うんですね。ですから「相客(あいきゃく)に心せよ」という言葉がありますけれど、それもやはり全てに通じることだと思います。
実際に自分が受け手として、今まで国内外で受けてきたおもてなしで心に残るのは、笑顔で心から歓迎してくれていることを感じたとき、この訪問の為に時間を割いて準備して下さったことを感じるおもてなしですね。

日常生活にとけこむお茶の面白さ・良さ

インタビュアー お着物はよくお召しになるのですか?また、岸田首相が外務大臣を務められていた際は、海外出張に同行されたり、夫人同士の会合・交流といった特別の場などで、着物をお召しになったのでしょうか。

岸田夫人 お茶を始めてからよく着るようになりましたね。着るようになって、やはり着物も自分で着れないと話にならないなと思い、習い始めました。今では自分で着付けられます。外交の場では自分で着物を着れるようにならなくてはと思い、一生懸命着れるようになったというのもありますが、意外とそういう場面が少なく、海外で着る機会はありませんでした。G7の時に世界の外相夫人の皆さまが広島に来られて、着物でおもてなしをしたぐらいですね。

インタビュアー 茶道を習っていて良かった、茶道のここが好きというのをお教えください。

岸田夫人 15年前に改めて始めたときは、本当にゼロからでしたので、少しずつできることが増えていくこと、一つずつできる様になっていくことに、楽しさを感じていましたね。
あと、私がお茶を習い始めて気付いたことは、今まで何気ない日常で親から躾られてきたこと、例えば食事の食べ方とか、挨拶の仕方とか、そういう普通に教えられてきたことが、茶道とすごく繋がることが多くありまして、そこが大きな発見でした。
茶道というと敷居が高いものに思いますが、結局は日常の生活に根差したものなのだと、強く思ったんですよね。ですので、私も主人が家に帰ったときは、お茶を一服点てて出しています。キッチンで点てて、食卓に出して、二人でお茶を頂く時間を楽しんでいます。主人も抹茶もお菓子も好きなんです。
家では、キッチンやリビングとか、日常生活ですぐ手の届くところにお茶碗とお抹茶、茶筅を置いてます。皆さんも、普通にコーヒーを淹れて飲んだりする様に、お抹茶も頂く様にすればいいんじゃないかなと思います。お花にしてもちょっと季節のものを摘んでくるなり、近くのお花屋さんで買ってくるなりして、ちょっと挿して置いておくというのでも、とてもいいと思うんですよね。季節を感じながらお茶を頂く、日常にホッとできる時間があるというのは、とても大事だと思います。
もちろん、四畳半の茶室で行われるお茶会は非日常の空間で、非日常感があるからこそリフレッシュできる、癒される部分があると思います。そういう感覚とは別に、作法や手順などの決まり事に捉われずお茶を頂く、「お疲れさま」という気持ちで相手のために心を込めて点てる、一緒に「美味しいね」という時間を作ることができる、というのが茶道の良いところだと思います。

インタビュアー これから茶道を習う方や、興味がある青年部世代に向けて、お茶の魅力、アピールポイントは何とお考えでしょうか?

岸田夫人 茶道の世界に入ってみて、外から見えるものと中に入って見えるものは本当に違うと思います。これから始める人のきっかけにはならないかもしれませんが、やはり先ほどお話しした通り、「日常生活にすごく繋がるものがある」とか、「季節や自然を大事にすること」が魅力なのかと思います。ストレスの多い現代では、自然を意識する、自分も自然の一部だなと感じることで、心が癒され元気になるというのは大事な要素だと思います。

出典:首相官邸ホームページ

追記:
岸田夫人は、5月23日に白金台の八芳園で、来日中のバイデン米国大統領にお点前でおもてなしをされました。エマニュエル駐日米国大使によれば、このもてなしに大統領は大いに感動し、仕事の関係から個人の関係に変わったということです。まさにお茶がつなぐ日米関係です。

岸田夫人と取材を担当した広報メンバー